研究内容

 材料開発・合成に始まり、その構造と諸物性の評価、さらには電池材料としての電気化学特性評価と反応機構解明、これらを統合した蓄電デバイス開発までをシームレスに行っています。さらに、計算科学の知見を適宜融合して多角的に本質に迫ることで、機能発現機構に対する深い理解を可能にしています。現状の先進デバイスであるリチウムイオン電池のみならず、資源的な制約のないナトリウムイオン電池、さらには次世代電池の現実解を見据え、新規材料の組み合わせや斬新な反応機構による動作原理検証やプロトタイプ実証も、長期的視点から積極的に推進しています。

主な研究内容3_1

 

 

電極材料開発

 通常、材料探索は萌芽レベルの網羅的研究と判断されがちですが、本研究室では、未開拓な新材料が埋もれている物質領域をはっきりと見通して電極材料開発を行い、多くの高機能新材料を発見してきました。これは、単に表層的な技術調査等により簡単に従来の延長上として進めるものではなく、独自に打ち立てた新機軸に基づく深い洞察により初めて実施できるものです。また、新規材料開発をもって研究を完結させるのではなく、それぞれの機能発現機構を十分に理解し、それらの組み合わせとしての革新的エネルギー貯蔵デバイスシステムを見据え、材料間の相互作用に伴って形成される相界面についても斬新な切り口から理解を進めて能動制御を可能とし、デバイスシステム全体を俯瞰した総合的学理を構築することを目指しています。

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電解液開発

 電極材料を電子的に絶縁しつつイオン伝導により媒介する電解質機能は、様々な形態の物質により実現可能です。我々は電極材料との自発界面形成機能とシンプルな設計指針が実用デバイスには不可欠と考えから、研究対象を高塩濃度液体系に特化しています。通常用いられる1 mol/L程度のアルカリ金属塩を含む有機溶液に対し、我々が着目している3 mol/L以上の濃度領域は、イオン輸送特性や電極反応速度の点で不利と考えられていました。しかし、溶媒・塩の組み合わせの多様性を一気に拡大することができる特質に注目し、異常な電気化学安定性や既存の商用電解液を大きく上回る反応速度を発現するケースを数多く見いだしています。すなわち、盲点となっていた高濃度領域で、これまでの概念では到達不可能な高機能が付与された電解液が実現されつつあり、様々な新規蓄電デバイスに展開しています。

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計算科学と実験の融合による本質へのアプローチ

 蓄電デバイスの高機能化において、原子スケールからの理解と制御は最も重要な課題の一つです。我々は、最新の第一原理計算技術を駆使して、電極、電解液、界面の静的・動的性質の解明を行っています。電池反応と密接に関連する相安定性、平衡・非平衡挙動、電子状態、電子伝導、イオン伝導、イオン吸着、脱溶媒和等、計算科学からのアプローチは多肢に渡っています。研究室の中に実験科学者と計算科学者が対等な立場で共存していることが大きな特徴で、常に互いを強く意識し刺激し合い、深く相互理解しながら研究を推進しています。実験でしか追求できないこと、理論計算でしか解き明かされないこと、両者の融合によって初めてあぶり出されること、これらを冷静に見極めながら最適なアプローチを行います。日常的な実験・計算の交流の中で双方の知見がリアルタイムに交換され、ここから多くの研究成果が生まれています。

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最先端プローブによる反応解析

 機能発現機構を十分に理解し、それらの組み合わせとしての革新的エネルギー貯蔵デバイスシステムを見据えるためには、バルク、表面、および界面の構造・電子状態を精密に解き明かすことが必要です。ただし、特殊手法に過度に傾倒しないことが肝要で、解析のための解析、装置使用ありきの研究に陥っていないか、常に自問するようにしています。基本的な実験を通じて基礎科学に則った考察展開を十分に行った上で、最先端の量子ビームラインを活用した反応解析が必然かつ有意義と判断される場合は、徹底的に有効活用します。Photon Factory, Spring-8, J-PARCの高輝度放射光や中性子を利用して、原子スケールからマクロスケールまでの機能発現機構の知見を材料・デバイス開発へと展開しています。ここでも理論計算科学との連携を密接に行うことで、高度なデータ解釈を追求しています。

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